小噺│17:29

「とまあ、そんなわけで少女の悲しい恋は終わりを告げたってわけ」
「ふぅん…なかなかの悲恋だね」

白を基調に飾られた店内。
一軒家仕立てのカフェで、南雲と佐伯は綺麗に盛り付けられたケーキを口にしながら会話を楽しむ。
一見すると今どきのスイーツ系男子とでも言おうか。
和やかな雰囲気で美味しそうにケーキを食べながら談笑する様は、とても微笑ましく感じる。

しかし二人の話す会話はお洒落な店内とは不釣合いなそれ。
彼らは怖い話を肴に、優雅にお茶の時間を楽しんでいた。


「なんだか話を聞いてると、七人ミサキを思い出すなぁ」

カップに入った紅茶で喉を潤しながら、南雲はそう感想を述べる。
その聞きなれない言葉に佐伯は不思議そうに尋ねた。


「南雲ちゃん、その七人ミサキ…っていうのはなんだい?」
「ああ、さえちゃんは知らないのか。
七人ミサキっていうのは、四国の妖怪だよ。妖怪というよりも死霊のそれに近いものらしいけどね。
海や川、そういう水辺に現れる七人組の亡霊なんだけど、その亡霊に行き遭うと事故や病気なんかに罹って祟り殺されてしまうんだ。
そして一人を取り殺すと七人ミサキの内一名が成仏し、替わって取り殺された人間がその七人ミサキの内の一人になるんだよ。
七人ミサキは常に七人組で存在し、数が増えることも減ることもないんだってさ」
「確かに、どことなくこの話を彷彿させるね…」

再び南雲がカップに口を付ける。
佐伯は考え込むように顎に手を置き、そしてくすりと微笑んだ。


「しかし南雲ちゃんは本当に妖怪とかの伝承に詳しいよね」
「まあ、こういう話が好きだもの」
「でも南雲ちゃん…」


−−視えないのにね、

笑みを浮かべ、佐伯は言葉を紡ぐ。
カップに入った紅茶の水面を眺めながら、南雲はくつりと口角を歪めた。
そして瞳を弓なりに細めて、正面に座る佐伯へと視線を合わせる。


「視えないからこそ、憧れ抱くものなんだよ」


−−視える人には分からないだろうけど、


カチャリ、
ソーサーにカップを置く音が、やけに響く。


「ははは。なるほど、たしかにそれは道理だね」

始めに声を上げたのは佐伯だった。面白そうに頬を緩め、笑い声をあげる。
その佐伯の様子に南雲も釣られて笑みを浮かべ、当然だよ、と声を掛けた。


「それじゃあさっき言ったと思うけど、集会の方よろしくね?
集会には自分は参加しないかもだけど、怖がらせ甲斐のある後輩を聞き役として派遣するから」
「ふふふ、楽しみにしてるよ」


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